岩元航大—Mokke
Photo: Shota Kono, ataW
Text: Takashi Kato
ジオメトリックな多面体のオブジェクトのようにも見える「Mokke」は大人も子供も愛着を持って遊び慈しむことができる玩具。これを手掛けたのは国内外のメーカーとの共同もあるデザイナーの岩元航大さん。最も身近にある材の一つである木材は、生活の身の回りにあることで穏やかで安らかな心をもたらしてくれる。木という材を育む愛媛の森と、この玩具に込めた思いを語ってもらった。
ー岩元さんは普段どのようなお仕事をしていますか?デザイナーになった経緯から教えてください。本業はプロダクトデザイン業を行いながら、八王子市にあるシェア工房の運営や様々な業種の方からの特注家具やアート作品の製作依頼を受けています。
在学していたECAL(Ecole Cantonale d’Art de Lausanne:ローザンヌ州立美術大学)の大学院当時から企業との商品開発を行っていました。卒業後も引き続き開発業務を行っていたため、気づいたら独立をしていました。
近年は国内外の家具メーカーと商品開発を進める傍ら、建築家やインテリアデザイナーとプロジェクトごとにチームを組み、空間に入れる家具の開発を行ったり、個人ワークとしては一点物のアートオブジェクト等の製作を行っています。
ー 「DOCU」のものづくりと深く関わりのある愛媛県や久万について、どのような印象をお持ちでしたか?久万造林の井部さんとの出会い、久万造林が扱う木材について、井部さん個人の取り組みや人柄について、実際に山を訪れた岩元さんの印象を教えてください。
3〜4年前に初めてDOCUのデザイナー全員で愛媛を訪れた際に、久万の森を散策したことが強く記憶に残っています。久万造林さんが、広大な針葉樹の山を自然本来の山に戻すプロジェクトについてお話をしている時、その途方もない活動に言葉を失いました。これまで人間本位で自然を好き勝手に形を変えてきた私たちの行いに真摯に向き合い取り組む姿勢に強い共感を持ちました。
実は久万造林代表の井部さんとはあまり話す機会がなく、お会いしたのも年末の食事会を含めて2回ほどでした。そのため、お亡くなりになる前に少しでも久万造林のことやこれからの林業について腰を据えてお話をしたかった、と残念に思っています。
ー本当にそうですね。100年先の山の未来を見据えた「黄金の森プロジェクト」など、実際に森や山、木を生業とする井部さんだからこそ、私も皆も井部さんの思いとともにその行く先を見続けたいと思っていました。
岩元さんはこれまで木材だけでなく、金属、塩ビ管など、さまざまな素材の特性を引き出すものづくりをされてきました。久万の森の木材ならではの魅力をどのように感じて、今回のものづくりに入りましたか。
一次から三次産業まで一貫して愛媛で行えることが最大の強みに感じました。自国に大量の木材があるにも関わらず国内で消費される木材の60%が海外輸入品である矛盾を見直し、地方の山林から山を切り出しその土地で木材として加工・生産・消費する本来の林業の在り方を取り戻す良いモデルになってほしいです。
ーものづくりを通じて愛媛県という地域に実際に関わるようになって、どのようなことを感じましたか?
私自身、曾祖父が林業を行っていたため、鹿児島県霧島市の山に小さな土地を持っており、その山の未来についても考える大きなきっかけになりました。もともと針葉樹が生えていましたが昨年父が木をすべて刈り取りチップにして業者に売ってしまったため現在ははげ山になっています。このまま放置してしまうと地滑りや土砂崩れの懸念があるため、何か手を打たなければと考えていますが、おそらく私の持つ悩みは山を受け継ぐ若い世代共通の悩みではないかと考えています。
久万に限らず日本全国で山林の環境改善を促進する活動が活性することを望みます。
ー「福祉」と「林業」はDOCUのプロダクトやブランドのコンセプトにおいて重要なキーワードとなっています。岩元さんご自身にとって、DOCUのものづくりにおける重要な要素である、福祉と林業はどのように作用しましたか?
DOCUでの製品提案は、林業と福祉がうまく結びつき作用するためのきっかけを作る製品を提案することが個人的テーマでした。DOCUの掲げるビジネスモデルが林業と福祉の相互作用を促し好循環を生み出せるよう今後の活動を期待しています。
ー 岩元さんがデザインを手がけた 「Mokke」の開発の経緯を教えてください。うさぎ堂の木工技術のどのようなところを活かしたいと思いましたか?
初めてうさぎ堂を訪れた際に導入されている工作機械を拝見し、手加工ではなく機械加工で精度のある製品を製作が可能であることを知ったことと、用途の限られる小径木の利用法について構想を練っていたことがきっかけとなりMokkeをデザインしました。
ー「Mokke」のインスピレーションについて教えてください。ジオメトリックな「Mokke」のデザインはどのように思いつきましたか?今なぜ子供も大人も楽しめる知育玩具だったのか、うさぎ堂の技術、久万の森との関わりも含めて教えてください。
子供と公園で遊んでいる際に、観察しているものや興味のあるものを隣でみていると大人には想像もつかない視点を持っていることに驚かされます。
「Mokke」は一つのピースの集合体ですが、1ピースでも動物の顔に見えたり複数のピースではまた違った姿かたちになります。おそらく私には何かの動物に見えているものも子供にとってはまったく違ったものに見えていることもあるでしょう。そのように、それぞれの自由な発想を共有しながら子供と一緒に遊べる玩具を目指しました。
ー 「Mokke」という名称について教えてください。どのような意味がある言葉ですか?
「もっけ」とは「物怪」と書きます。思いがけないことや不思議なこと、という意味があります。磁石でカチカチッとくっつき、様々なかたちに変化していく様子は、「化けて」人を驚かせるタヌキやキツネのようだと思い、この名前を思いつきました。
ーヒノキ材の30のピースについて
材としてやわらかく、万が一、子供が投げてもけがをしにくい木材ということでヒノキを選びました。
一種類のパーツが複数個くっつくことで多面体の造形物が生まれるイメージは当初からありましたが、その形や個数はスタジオで試作をつくったりPCでデータを製作する中で自然とできあがっていきました。
ー多面体の美しい構造、そして、オブジェとしても印象的な美しさがあると思いました。単なるシンプルな構造ではない、複雑な形態にした理由を教えてください。「Mokke」のディテールのデザインの意図と、そこに込めた思いはありますか?
また、工法についてはNCにこだわったそうですが、今回製造に用いた技術について教えてください。
製品としての品質担保と加工の簡略化のために、パーツの加工をほぼ一つの機械でできるようにNC加工にこだわりました。利用者さんにはマグネットを埋めるための穴あけや塗装などの軽作業をお願いしています。
「DOCU」のプロダクトラインの中で、利用者さんに木材加工に深く携わってもらい製品の形状をゆだねるようなアプローチもある中、ブランド全体としてのバランスを考えた際に以上のような方法も一つの正解になるのではと考えました。
ー開発にあたり難しかったところと、こだわったところ、作りながら発見したことを教えてください。
子供のおもちゃのため、誤飲やけがのリスクを避けるために大きさや形状には特に注意を払いました。
設計上どうしても角ばったかたちになってしまい、安全面に配慮して角を丸くすることも検討しましたが、やわらかい針葉樹を使っているので遊びながら自然と角が取れていくことを想定しています。
ー 「Mokke」は独特な形をしています。デザインやプロダクトに関わらず、身の回りのものなど、何かイメージをしたものはありますか?
最終的な形は多面体の立体パズルのイメージはありましたが、一つのピースのデザインは特に
はっきりしたイメージをもって生み出したわけではありません。出来るだけ自分の意思をなくし、イメージを他者にゆだねることに注力しました。
ー実際に「Mokke」を使ってみての感想を教えてください。どのように使い、楽しんで欲しいですか?
親子のコミュニケーションツールのひとつとして使ってもらいたいです。それが子供にとって幼少期の思い出となり、その子が誰かの親になったときに同じように「Mokke」で子供と遊んでほしいです。
ー普段どのようなものやことから、デザインのインスピレーションを得ますか?
素材に縛られず様々な加工技術に興味を持ち、工房で職人の加工技術を真似てみること。
子供と遊んでいるときに子供の視点を借りるとき。訪れた土地の文化や歴史・民族性から学び得られたことなどからインスピレーションを得ているように思います。
ーデザインをする上で大切にしていることを教えてください。
海外の大学院に通っていたころに自分のアイデンティとは何か、と考えることが多くなりました。その当時、禅宗の用語に「本来無一物」という言葉があることを知ってから、自分の中で腑に落ちた感覚を覚えました。「本来無一物」は、一切の事物は実体を持たないのだから何かに執着してはならない、という教えです。プロダクトデザイナーにとって、何か強い信念を持って商品開発に挑むことが求められる中、事物は実体を持たない、と言い切られると筆が止まってしまい何もできなくなりそうですが、この教えと少しニュアンスは違いますが、1000年後には目の前にあるだいたいのものは塵になっていると考えられるようになってからは、いかに残すか、というよりはいかに後世に残さないようデザインできるか、と意識するようになりました。
また、コアー・クリントの「古典は我々よりもモダンである」と言う言葉も忘れないよう時々見返しています。
ーデザインすることだけでなく、日常のさまざまなことの教訓となる素晴らしい言葉であり、教えですね。普段、海外のクライアントとのプロジェクトが多い岩元さんですが、日本の木材の可能性、日本のものづくりと海外のものづくりの違い、日本の素材や技術ならではの強みを、岩元さんの考えで構いませんので教えてください。
海外のクライアントとの会話で、日本の針葉樹、特にヒノキに興味をもっている、という話を聞くことがあります。広葉樹にはない木材の軽さや温かみ、乳白色の色味・香りから日本らしさを感じるそうです。日本に多い杉檜といった針葉樹は、広葉樹と比べて柔らかく傷つきやすい点から家具には不向きとされてきましたが、日本の「侘び寂び」的な価値観が世界から見て再評価されているいま、木材の傷やへこみ・傷みを許容するようなユーザーの寛大さが人々のなかで育ってくると、針葉樹の価値も変わってくるのではと期待しています。
ー林業といった今回のコラボレーションで岩元さんご自身が得たものを教えてください。林業や山、自然に関して私たちが出来ること、今やるべきこと、それらへの思いや、あらたな知見や問題意識をもったことなども教えてください。
このプロジェクトへの参加が、現在、日本の山林が抱えている大きな問題について改めて学ぶ大きな機会となりました。
具体的には、将来の需要を見込んで全国の山林を切り開き、杉・ヒノキを中心とした針葉樹を必要以上に植樹したのがこの20世紀のことです。ただ、そのことがきっかけとなり、水や空気を吸収できない質の悪い土壌が生まれ、植物性プランクトンが河川に流れ込まなくなるという現象が起こったといわれています。上流である山林での営みが、それまで豊かだった海洋生物の減少につながるなど、山だけの問題にとどまらず、現在、未来の私たちの食の問題にまで影響を及ぼしていることです。
「DOCU」での取り組みが地方の一企業の取り組みに留まらず、全国の山林の環境改善に役立ち、さらには官民一体となった大きな動きに発展することを期待しています。
岩元航大
鹿児島県生まれ。2009年神戸芸術工科大学プロダクトデザイン学科入学後、デザインプロジェクト「Design Soil」に在籍し、イタリアのミラノ・サローネやフィンランドのハビターレ等、海外の展示会に多数参加。2016年にスイスのEcole cantonale d’art de Lausanne(ECAL)のMaster in Product Designを卒業後、現在は東京を拠点に、精力的に活動を行っている。2022年、エルデコジャパン・ヤングジャパニーズデザインアワード、同年メゾンエオブジェ・ライジングタレントアワード受賞。