槙野 賢児 | 宗友福祉会うさぎ堂
Photo: Shota Kono
Text: Takashi Kato
DOCUのプロダクトの制作を手がけるのは松山市にある木工所、社会福祉法人 宗友福祉会うさぎ堂。母体となる社会福祉法人 宗友福祉会は平成元年設立。障害者総合支援法・児童福祉法による障がい児(者)を対象としたサービスを行っている。2019年に木工を手がける多機能型事業所のうさぎ堂を開設。主に木工家具や仏具などを手がけている。運動場やビニールハウスもある広大な敷地にはリサイクル工場、自動車整備工場、居住施設、などここで働く利用者の活動する生活拠点となっている。うさぎ堂のものづくりを指導的な立場からサポートするうさぎ堂職員の槙野賢児さんに日々のものづくりとDOCUに込めた思いを聞いた。
ーまずは、社会福祉法人 宗友福祉会うさぎ堂とはどのようなところか教えてください。
障害者の方が作業をする多機能型の日中作業施設になります。生活介護と就労継続支援B型の2種類のサービスを提供しています。
そのなかで支援者である私たちが利用者さんの側につきサポートをしながら、平日の8時半から17時まで作業をしています。
ーDOCUのプロダクトや家具が作られているこの作業所で行っているのは主に木工になりますか?
4つほど行っている木工作業があります。薪を割って乾燥させキャンプや薪ストーブに使う薪の製造、葬具である野道具の製造、御神輿の製造修理、それとNCルータやレーザー加工機のようなコンピュータ制御により稼働する比較的高性能な機械を加工のメインにして、オーダーに応じたものを作る外注加工部門になります。
ー現在、利用者さんは何名ですか?
通所をされている方、木工所と周辺地域にあるグループホームで生活をしながら通っている方を含めて28名になります。皆さん日々先ほどお話しをしたいずれかの作業に携わっています。
ー今回DOCUの立ち上げには高性能加工機の活用と、林業と福祉の連携がキーになっていたとお聞きしました。
はい。私たちの工場に以前から課題としてあったものの一つが、高性能な加工機の有効的な活用でした。これまでもそのような加工を必要とされる事業所様に営業をかけてお仕事をいただいてきましたが、継続的な運用にはなかなかつながりませんでした。
そこで考えたのが、NCの加工に特化した製品のデザインを自社で導入することでした。そうすることで稼働率をアップさせることができるのではないかと思い、国からの林福連携事業の助成金をいただいたことをきっかけに、地元愛媛の木材を活用したものづくりというこのプロジェクトが動き始めました。
ーそれが2022年度に一年間かけて行われたDOCUの前身となる福祉と林業のデザインとリサーチプロジェクトですね。
そうです。弊工場で家具の加工をさせていただいた家具ブランド「FIEL」のお付き合いから、数名のデザイナー、建築家、フォトグラファー、ライターを加え、これまで何度か松山にお集まりいただき合宿ミーティングを重ね、このメンバーによるグループワークを通じた課題解決のためのものづくりが始まりました。
ーDOCUでのものづくりにおいて、うさぎ堂として目指しているのはどのようなことでしょうか?
きっかけは地元愛媛の木材を活用した弊工場の高性能加工機械の有効活用するものづくりでしたが、参加していただいているデザイナーさんと協働して世界に通用するプロダクトや家具の開発、ものづくりをすることで自ずと技術の向上や働きがい、それと利用者さんの工賃のアップにも繋げたいと思っています。それとDOCUブランドのものづくりだけでなく、それがモデルの事業となって、このグループワークへのお仕事の依頼にも発展すれば、当初の課題解決のさらなる発展になるのではと考えています。
ーNCルータやレーザー加工機などの高性能加工機の利用について工場としてデザイナーに要望したのはどのようなことですか?
当初希望をしたのは、製品の用途・機能よりも優先してNCルータによる加工が全加工工程の8割以上になるような製品のデザインを考えて欲しいということでした。
ー実際にデザインが上がってきた時にどう思われましたか?
デザイナーのみなさまに働き手の特性や機械装置の特性を細かいところまでご理解いただきデザインしていただいたおかげで、私たちがものづくりをしていくなかで、これまで見たこともなかったかたちや用途であり、当初目指していた私たちの取り組みとして新たな道が拓けたと可能性を感じました。
ー今回デザイナーとの協働によりプロダクトが生まれましたが、御社の技術を使うという部分でも手応えがあったということでしょうか?
それぞれのデザインを前に、試作、製品とスムーズにものづくりは進みましたが、その過程での試行錯誤があり、大変手応えのある取り組みになりました。
ー具体的にはどのようなことでしょうか?
プログラミングは問題がなくても、実際にカットした時の仕上がりもその一つでした。これまでやったことのない図面に引かれたかたちを前にして、全てが「まずやってみる」という新たなトライの連続でした。その甲斐もあって、一つずつ課題を解決していく取り組みによって、新たな課題にも直面しましたが、間違いなく職員のスキルアップになり、それは大きな財産になりました。
ー全てNCの加工を通して生まれたものになります?
はい。全体の割合の違いはありますが、今回デザインしていただいたものは全てNCの加工を経たものになります。
ー高性能機械の加工に利用者さんたちはどのように関わってくるのでしょうか?
NCルータの加工においては、操作をするという部分に関わっていただきます。NCルータの特性としてあるのがオペレーションの容易さです。操作が簡単なので材料を置いて、吸着、そして起動のボタンを押すという一連の操作をすれば加工を仕上げてくれます。それを繰り返し行うことで量産が可能になります。
ー今回、長尾美術を主宰するデザイナーの長尾周平さんのアイテムのように、最初のNCルータによる木材のカットに、製品のフィニッシュに手加工のプロセスが大きく関わるプロダクトのようなものもあって面白いと思いました。
長尾さんの「Alive」は、うさぎ堂には、いろいろな能力を持った利用者さんがいるなかで、作業に関われない人をなくすことをコンセプトに持ったプロダクトを考えていただいたと思っています。
何度か工場にお越しいただいて利用者さんの作業を見ていただいた時に何の気なしに「ずっと磨いているので、机に穴があいているんですよ」とお話をしたところ感動していただいて、それを商品に転化できないかということから出来上がったかたちです。
ー利用者さんの手の仕事をデザインに取り込んだんですね。
はい。それぞれの利用者さんの特性がそこに活かされているのではないかと思っています。芸術的才能ではないところでも利用者さんの個性を製品に活かすことができるという取り組みです。
ー具体的にはどのようなものですか?
利用者さんのなかには日々木材を磨くということを仕事としている方もおられます。
長尾さんにご提案いただいたものはただ磨くだけでも能力と個性を発揮することができ、それが製品の特徴になるものになりました。「デザイン」が利用者さんと世界、しいては社会とのつなぎ手になってくれていることを実感しました。
ーデザインがかたちではなく、誰もがものづくりに参加できる機能のようなものを生み出すものになっていくということですね。
まだまだ通過点ではありますが、そこがデザイナーさんと出会うことで生まれた、繰り返しの毎日の日常がたどり着いた点だと思います。その線上の先に、これまでキャラクターを認められていなかった彼らが、一人のアーティストとして認められる瞬間が訪れてほしいというのが私の夢でもあります。
ー木の家具やプロダクト作りには木材は欠かせません。愛媛県は産業としての林業が盛んなことは全国的にも知られています。DOCUは林福連携事業がきっかけに生まれましたが、林業との連携はどのように生まれたのでしょうか。
おっしゃる通り木製品の製造には木が欠かせませんが、材料となる木自体が木工所にとっては仕入れるものであり、オリジナルの製品を作るとなった時には仕入れすなわちコストであり在庫になり、そのための資金が必要になります。
そこで木材の調達に長けた方として以前から知り合いの井部さんに相談をしたことがきっかけでした。井部さんは材料の調達から製品を作る際の材料持ち込み、販路もお持ちなので出来上がった製品の流通にもご協力いただけるのではないかと思っていました。井部さんはもともと私どものような福祉事業に理解を持っていただいていた方でしたので、今回のお話にも快諾いただき試作作りの材料も無償で提供していただきました。
ー福祉にも理解があり、地元の材を使うことにも繋がり林福連携の理想的な座組が生まれたのですね。
はい。今では材料の調達だけではなく、DOCUの活動に全面的に賛同していただき一緒にプロジェクトを進めています。
ーDOCUでは井部さんが代表を務める久万造林の木材を使って製品をつくりますが、樹種選びについて少し教えてください。
一番手に入りやすいもの、製品として形にしたときに欠損の出にくいもの、加工のしやすさを考えて檜が中心です。しかも久万造林さんが持っている檜は品質が高く、径級の大きい丸太が多いのも特徴です。
ー久万の山は林業において理想的な環境だと思うのですが、槙野さんにとっての久万の山の魅力を教えてください。
DOCUでは基本、久万の山の木を使っています。魅力はいくつもあるのですが、久万高原町という林業の町は、愛媛における最も古い林業の歴史を持つ町です。その歴史も含めて重厚感のある木材を産出する産地であること。それと山と工場の距離が近いことも、木でものづくりをする上では大きな魅力です。それと久万造林さん自身が持つ魅力も大きいです。建築材料の木材を産出するだけでなく、自社の山でとれる木材を使い、生活にまつわるクラフト製品も手がけられています。しかも現在と未来の林業に対して独自の課題をお持ちで、100年先の森づくりを見据えた「黄金の森プロジェクト」を推進するなど、産業としての林業を新しいアプローチで切り拓こうと実践されている姿に共感しています。
ー愛媛で福祉、林業、それぞれの分野で新しい取り組みをされている2社の連携により生まれたDOCUについて槙野さんご自身はどのような可能性を感じているか教えてください。
参加していただいているデザイナーの皆さんには松山にお越しいただき、私たちの製造の現場と久万の山を見ていただきましたが、皆さんにはそこに愛着を持っていただけたことを実感しています。それがデザインをするモチベーションにしていただいていることがDOCUのプロダクトの強みにつながっていると個人的に思っています。ですので関わってくださっているすべてのみなさんと手にしていただいた方に喜んでいただけるブランドに育てていきたいと思っています。
槙野 賢児
宗友福祉会うさぎ堂
愛媛県松山市にある社会福祉法人宗友福祉会が運営する多機能型事業所。就労継続支援B型、生活介護の2種類のサービスを提供している。18歳から72歳までの知的障がいのある利用者と職員が、木工製品の加工、製造や、薪の販売などを行う。利用者数は生活介護19名、就労継続支援B型9名で、計28名。(2024年6月現在)